【歌舞伎】歌舞伎らしい歌舞伎『平成31年1月歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎 」』観劇記

初春大歌舞伎

初めての歌舞伎に最適な演目が並んだ夜の部

東京・歌舞伎座にて、平成31年の芝居始め。
夜の部を見物。
改めて演目を見てみると、歌舞伎らしい演目が並んでいる。
重厚な義太夫狂言「絵本太功記」で幕開け。
華やかな所作事「勢獅子」で繋いで、後半は「松竹梅湯島掛額」。
「吉祥院お土砂の場」では現代時事ネタを盛り込んだ世話場を見せ、大詰め「四ツ木戸火の見櫓の場」で八百屋お七を人形振りで見せる。
昼夜とも曽我狂言が盛り込まれ、これぞお江戸の正月狂言である。
今回のお目当ては、猿之助が紅長を演じる「吉祥院お土砂の場」。
それで夜の部を取ったようなものだ。
もちろん吉右衛門も大好きだが、「太十」が昼の部だったとしても、涙を呑んで夜の部をとったことだろう。

NHK「こいつぁ春から 初芝居生中継」で予習

さらに正月の歌舞伎座のいいところは、1月2日にNHKで一部生中継されるところ。
副音声で解説もついて、これで予習ができる。
同じ芝居が2度見れる訳で、理解度も上がる。
理解度が上がればより楽しめるのが歌舞伎のいいところ。
ネタバレ上等である。

皐月役の東蔵さん体調不良により休演。当日の代役は秀太郎さん

見物当日は東蔵さん体調不良により休演。
皐月の代役は秀太郎さんが勤めていました。

「勢獅子」っていうくらいだから、獅子が主役なのか!

所作事の「勢獅子」。
梅玉さんと芝翫が鳶頭。
途中、曽我物語を踊って、「お!これ曽我物じゃん!」とちょっと興奮。
江戸の正月芝居といえば曽我物を上演するのがお約束だけど、現代ではそんなことなくなっていたからね。
触れる程度でも曽我物がでてくると、江戸の頃の歌舞伎を見ている気分になれてうれしい。
さらに獅子舞が舞う。
この獅子舞がチャーミング。
足の毛繕いしたり、後ろ足で耳の裏を掻いてみたり。
顔でないなぁ、誰だろうと思っていたら、最後に面をつけて出てきた。
面をつけてひとしきり踊り、最後に面を取ったら福之助と鷹之資。
獅子舞の中に入っていたのは、福之助と鷹之資。
踊っている最中は全然顔が見えないのに、折り目正しく神妙に踊っていた2人に感心。
この演目。
「勢獅子」っていうくらいだから、「獅子」が主役なのかもね。
そう思うと、主役の獅子の中に入った二人、福之助と鷹之資に掛ける期待の大きさがわかってくる気がする。

ハズキルーペ、U.S.A、息子には敵わない「松竹梅湯島掛額・吉祥院お土砂の場」

霊験あらたかなお土砂を掛けると、死体の死後硬直はおろか生きてる人間もふにゃふにゃになってしまう。
それが「お土砂」。
紅長こと紅屋長兵衛は、惚れた女「お七」の為に、掛けて掛けて掛けまくる。
悪人、善人お構いなし。
更には黒子、附け打ちまで。
最後には、花道に迷い込んだ一般客と追ってきた劇場の係員まで。

今回は、一般客が乱入する演出は無し。
代わりに、時事ネタを入れてくる。
「ハズキルーペ」にDU PANPの「U.S.A」。
幸四郎演ずる小姓吉三郎に「いい男だね」と言いながら、「近づいてみたら息子にはかなわねぇや」と混ぜっ返す。
吉三郎がお七に水を口移しするところの段取りを間違えたのは素かな。
本来は紅長に「口移し」を促されてから吉三郎が口に水を含むところを、いきなり呑んでしまって「お前が飲んでどうする」と突っ込まれていた。

最後は紅長の先導でお七と母おたけも逃げ延びる。
ともかく客席大喜び、大笑いの舞台。

しんしんと降る雪に七之助の人形振り「 松竹梅湯島掛額・四ツ木戸火の見櫓の場 」

一度幕が締まり、開くとがらりと雰囲気が変わる。
しんしんと降る雪に火の見櫓。
吉三郎を救うために、御法度の太鼓を打ち鳴らす。
文楽人形の動きを人が再現する、「人形振り」という手法で八百屋お七の切羽詰まった決意と覚悟を表現する。
八百屋お七を演ずるのは七之助。
前半はおっとりとしたお嬢様。
人形振りを経て、愛しい人を救うため我が命も顧みない激情の女へと変化していく。
こうしてみると、一人の人間の性根の変化を踊りと引き抜きで見せる、まことに見事な演出である。
最後は吉三郎が探していた「天国の剣」(あまくにのつるぎ)が手に入り、お七は開いた木戸を通って、吉三郎の元に駆けてゆく。

歌舞伎見てみたいけれど、何からみたらいいのか判らないって人は、とりあえず今月の歌舞伎座に行ってみればいいよ

「歌舞伎見た!」って満足感で歌舞伎座を出る。
「初心者はなにから見たら……」って聞かれることあるけれど、オススメの演目がその月にやっているとは限らないんだよね。
そう意味で、今月の歌舞伎座の夜の部はチョーオススメ。
そろそろ歌舞伎デビューしたいなって人は、今月の歌舞伎座に今すぐ行きなさい!


壽 初春大歌舞伎
平成31年1月2日(水)~26日(土)

昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時30分~
【貸切】8日(火)昼の部 ※幕見席は営業

詳しい公演情報は「歌舞伎美人」から
壽 初春大歌舞伎 | 歌舞伎座 | 歌舞伎美人(かぶきびと)

チケット購入は、チケットWEB松竹が便利。
チケットWeb松竹